①~人間の身体はつながっている~
離れた部位に影響が現れる理由
腰から遠く離れた足や頸の問題が、腰に影響を及ぼすことがあります。不思議に思えるかもしれませんが、実はこうした現象は人間の身体がつながっていることで起きているのです。
全身の骨は関節によって骨組みをつくり、骨に付着する筋肉によって全身の張力が保たれています。
それはまるで背骨を中心としたテントや建物のようなものです。一つひとつの関節はそれぞれの動きがありますが、隣り合う関節にも動きが連鎖しています。つまり、なにか動作を行う時、一つの関節だけではなく他の関節も同時に動いているのです。これが「運動連鎖」です。
同時に筋肉もそれぞれ異なる働きを持っていますが、筋肉を包む筋膜同士も連結しています。これを「筋膜連結」と呼びます。筋膜は結合組織でできている丈夫な膜です。それが筋肉から骨につながり、次の筋肉へとつながっていきます。例えば、ふくらはぎにある腓腹筋の筋膜は、太ももの裏側にあるハムストリングの筋膜につながっています。そうやって、全身の筋膜がつながっているのです。
そのため、ある筋肉の問題が、離れた部位に影響を与えることがあります。痛みがあるのが腰でも、原因は他にあるかも
しれないのです。
②~頭や足首がずれると腰もずれる~
頭の位置で背骨のカーブが変わる体の動きは連鎖します。例えば、直立した状態で、あごを出すようにして頭の位置を変えると、背骨が後弯して猫背になり、骨盤が後傾します。反対にあごを軽く引き、天井から頭のてっぺんが引っ張られるイメージで頭の位置を変えると、背骨がすっと伸びて腰椎に適度な前弯カーブが生まれ、骨盤は前傾します。このように、頭の位置を少し動かすだけで、背骨や骨盤は連動して動きますが、これは、両目を水平に保ち、顔を正面に向けようとする補正作用です。また、後傾している骨盤を立てて座るようにすると、腰椎から自然なカーブが生まれ頭の位置も正しい位置へと連動します。このように上下どちらからアプローチしても、歯車のように連動するようになっているのです。
そして、立っている時や歩いている時には、足の裏に体重と同じ大きさの床反力が働いています。
この力は足首や膝、股関節などに異常がなければ、骨や筋肉にとって問題もなく、衝撃を吸収できないばかりか、異常な運動連鎖が生じて
、膝関節や股関節、仙腸関節などにねじれた力が伝わり、関節などを傷めることに。その過程で腰痛が生じることもあるのです。
③~ 3つのタイプから腰痛の原因を探る~
腰痛に限らず治すためにまず必要なのは、体のどこに問題があって腰痛が起きているのかを、明らかにしておくことです。
原因は人によってさまざまですし、同じ人でもその時によって違うこともありますので、患者さんの腰痛にあった対策を講じていくことになります。
どこに問題があるかを探る時には、①背骨、②骨盤、③足という腰痛の原因となりやすい「3つの土台」について、それぞれがどのような状態にあるかを考えてみます。「背骨」とは、頭から続く頚椎、胸椎、腰椎、仙骨、尾骨と肋骨や肩甲骨まで含めたものを指し、これらを1つの土台と考えます。「骨盤」は股関節と仙腸関節が中心。骨盤と一体化した背骨の一部である仙骨の上に腰椎より上の背骨が乗っているので、骨盤の歪みや不安定は腰椎に負担をかける重要な原因となります。
「足」は、まさに体の土台となる部分です。ここに問題があると、その影響は上へ伝わっていき、腰痛を引き起こします。
④~➀背骨 背骨を支える筋肉が重要~
重力の影響によって、直立二足歩行の人間の背骨には、常に頭から下の体重が加わっています。その影響を特に受けやすいのが、
背骨の中でも腰椎です。上半身全ての体重が加わる上に前後に大きく屈伸できるため、腰椎には特に大きな負担がかかることに
なります。
ただ、こうした負担から腰を守るための構造が、人間の体には備わっています。その一つがコルセットのような働きをする体幹の
筋肉。深層部でお腹を取り巻いている腹横筋が体幹の代表的な筋肉です。他に骨盤の底でハンモックのように支える骨盤底筋群、
背骨のカーブを保つ脊柱起立筋の一部である多裂筋、呼吸に関わる横隔膜といった筋肉群で、腹圧を調整するインナーユニット
(体幹の中でも核となる部分を指し、骨盤底筋群、脊柱起立筋、腹横筋、横隔膜で構成される)を形成しています。これらの筋肉が
弱くなっていると、コルセット機能が十分に発揮されないため、腰椎がダメージを受けやすくなります。そうならないためには、
体幹の筋力強化に取り組む必要があります。
また、多裂筋が過剰に緊張して硬くなって痛みの原因になったり、お腹の筋肉にコリが生じることで鍛えても筋力が発揮できずに痛みが
出たりすることもあります。こうした場合には、筋肉に直接アプローチすることが必要です。
②背骨 S字カーブとスムーズな動き
背骨を守る2つ目の防御構造は、背骨のS字カーブです。特に腰椎部分の、前に出っ張る前弯というカーブによって背骨に加わる
力をうまく分散することができ、背骨が上半身の重さに耐えられるようになっています。また、腰椎の前弯カーブがないと、
椎骨の間にある動きや体重負荷の役割を果たしている椎間板の消耗につながり、腰痛の原因にもなります。
自然なS字カーブを描くように背骨や周辺の筋骨格を調節することが、問題の解決につながります。見た目の構造的な問題だけ
ではなく、背骨の動きが悪くなることも、腰痛の原因になることがあります。椎間関節の動きが悪くなると、背骨の連動性が
失われます。椎間関節の動きを改善することは、腰椎の理想的なカーブを取り戻すという意味でも重要です。
また胸郭や肩甲骨の動きが悪くなると、胸椎の動きも制限されやすくなります。そして、本来胸椎の役割である動きの代償を
腰椎が負うことになり、腰椎のオーバーワークにつながります。胸郭や肩甲骨の動きを高めると呼吸がしやすくなり、自律神経の
バランスも整ってくることが期待できます。
⑤骨盤➀ 適度な骨盤の傾きと股関節骨盤は背骨の土台です。
背骨の一部である仙骨は、腸骨という骨と仙腸関節でつながり、骨盤の一部でもあります。そのため、骨盤に歪みが生じると仙骨が傾き、背骨に影響が出てきます。人間が直立した時、背骨はやや前傾しているのが正常です。
ところが、その傾き具合の変化によって腰椎のカーブが強くなりすぎたり、平らになったり、ねじれたりと影響を受けるため、腰の負担が大きくなってしまうのです。骨盤の歪みを取り除き、正しい状態に調節するためには、骨盤周辺の筋肉のストレッチやマッサージの他、股関節にアプローチするのも一つの方法です。股関節の可動性の低下は、腰椎に負担をかける事を知っておく必要がある。
骨盤② 仙腸関節のかみ合わせ
骨盤の問題としてもう一つ重要なのが、仙腸関節に起きている異常です。仙腸関節の動きが悪くなったり、かみ合わせが悪くなったりする事で腰痛がなかなか治らない人もいます。仙腸関節は、足→膝→股関節から続く、下から上への上行性の力と、腰椎→仙骨から続く、上から下への下行性の力が伝わりあう大切な部分です。この動きが悪くなることは、背骨や下肢にも大きな影響を及ぼしてしまうのです。
仙腸関節は、かつては不動関節と言われていましたが、実際にはわずかに動くことがわかっています。ずれたかみあわせを元に戻したり、動かなくなった仙腸関節を動くようにしたりするにはまずはアンバランスになっている可能性がある周辺の筋肉・筋膜の調整をする必要があります。
⑥足➀ 繊細な動きとセンサー
二足歩行の人間にとって、足はまさに体の土台です。ここに歪みがある場合、足より上の構造のどこかで補正する必要が生じます。そうした補正が、膝関節や股関節、仙腸関節、仙腸関節や背骨で行われるため、足の異常で腰痛を起こしてしまう人がいるのです。足の歪みが生じる原因にはいろいろありますが、過去の怪我もその一つ。例えば捻挫ぐせがあったため、足首に歪みが起きている人がよくいます。また、合わない靴が足の歪みを生みだしていることもあります。
また、足底にはセンサーがたくさんあって、床反力を敏感に感じとっています。それに応じて必要な筋肉を収縮・弛緩させることでバランスを保ち、私たちは2本の足で安定して立ち、歩くことができるのです。ところが、センサーで感じ取って反応するという一連の行動が、スムーズにできなくなっている人がいます。
こうした足の問題を解決するためには、硬く縮こまった足の筋肉と筋膜を開放し、意識的に関節を動かすようにします。足にはたくさんの骨と小さな筋肉が存在し、体のバランスを保つために、繊細な動きをする構造になっています。それらの筋肉をしっかり動かせるようにすることで、土台としての足が機能するのです。
⑥足➁ ふくらはぎの柔軟性
腰痛に悩む人の中には、ふくらはぎの筋肉が硬くなっている人がいます。人間の体は後ろに倒れるとダメージが大きいので、基本的に前重心になって歩くことができるようになっています。そのため、ふくらはぎの筋肉は発達し、体が前に倒れてしまうのを防いでます。しかし、それに加えて過剰な前重心の姿勢や間違った歩き方、足首のねじれ、腰痛や骨盤の歪みによる神経の興奮、下痢などによる電解質の異常などが、余計にふくらはぎの筋肉を緊張させます。また、ふくらはぎの筋肉が硬くなると、足首の関節が背屈しにくくなり、歩いたり走ったりする時間に問題が出てきます。
十分に背屈しないことにより、片脚を地面につけ体重をかける動きの中で、足首のねじれが生じるなどします。