動筋と拮抗筋の関係
ある筋が短縮によって運動制限がある場合、その拮抗筋の長さは延長していることになる。例えば上腕二頭筋が動筋の場合は上腕三頭筋が拮抗筋、上腕三頭筋が動筋の場合は上腕二頭筋が拮抗筋になります。この2つの筋を例にした場合、臨床上問題になるのは肘が伸びなくなるケースです。すなわち、上腕二頭筋に短縮が生じ、上腕三頭筋が延長してしまっているケースです。この場合、上腕二頭筋に対してストレッチやマッサージ、鍼などで筋を伸張させます。その結果、その日の治療で肘が少し伸びるようになったとします。しかし、このまま患者さんを帰宅させたのでは、またすぐに治療前の状態に戻ってしまう。(再発)なぜなら、自宅では物を持ったり、歯を磨いたり、顔を洗ったりと上腕二頭筋を使うことが多いからです。その日の治療を維持させるためには、拮抗筋の上腕三頭筋に着目する必要があります。すなわち、上腕二頭筋のストレッチを引き続き行う必要があります。
優位・短縮しやすい筋 延長・弱化しやすい筋の組み合わせ
①①優位・短縮しやす筋 | ↔︎ | ②延長または弱化しやすい筋 |
頸部伸筋群 | ↔︎ | 頸部前方の屈筋群 |
僧帽筋上部・肩甲挙筋 | ↔︎ | 広背筋 |
大胸筋鎖骨部繊維 | ↔︎ | 僧帽筋中・下部繊維 |
小胸筋 | ↔︎ | 菱形筋 |
脊柱起立筋・梨状筋 | ↔︎ | 腹筋群 |
腸腰筋・大腿筋膜張筋 | ↔︎ | 大臀筋 |
ハムストリングス | ↔︎ | 大腿四頭筋 |
股関節内転筋群 | ↔︎ | 中臀筋 |
下腿三頭筋 |
↔︎ | 下腿の背屈筋群 |
長期間伸張した肢位の起こる筋力低下
筋は長期間の安静や非活動、あるいは不良姿勢によって伸張された肢位を強いられると筋力低下をきたす。例えば、いつも一方を下にした側臥位をとる習慣がある場合、下方になる肩甲骨が外転して前方に変位し、僧帽筋下部繊維や菱形筋が伸張されてしまいます。また胸郭が大きく上肢が重いケースでは、上になる上肢の重みによって肩甲骨が外転方向に引っ張られ、上腕骨頭が前方に変位し、僧帽筋上部繊維が優位なり筋活動が過剰になってしまう。
損傷している筋へのアプローチ
肩が下方へ下がっているような状態にあると、筋が過度に伸張されて損傷を引き起こすリスクがあります。僧帽筋上部繊維が損傷されると、肩甲骨の重みが筋にとって過負荷となり、肩がその筋を引っ張り、引き伸ばされる結果となります。損傷には筋の痛みを伴うことが多く、それはその筋が常に緊張を強いられているからであり、安静時にも実際には筋は緊張している状態です。筋を本来の安静時の長さに保持してリラックスできる状態にすると、不快感は軽減し、他動的張力も減少する事があります。
損傷している筋は触診や最大収縮の際に痛みを伴います。筋に損傷が起こっている場合、強い抵抗をかけたりせず、継続的な緊張を加えない状態で保持しておくことで回復が進みます。そして、筋にかかる負荷を筋力の回復とともに徐々に増やし、関節が正しい運動をできるようにすることが大切です。